チームラボでバッドトリップして号泣してゲロ吐いた話

アニメ記事ばかり書いてたので日記でも。とはいえ一年くらい前の話だし備忘録として。

 

2021年秋、今更チームラボに行った。開業したときから行きたいとは思っていたけどどうせ混むし会期めちゃ長いしそのうちでいいや〜なんて先延ばしにしてたらコロナ禍突入しさらに延びやっと今になって。

 

行ったのはお台場。理由は単純でパレットタウン閉業に伴いこちらの方が終了が早いからである。

会場に入る。壁をたくさんの蝶々が飛んでいる。よく見るとプロジェクションマッピング的なやつでその場にいる人にとまっていたりする。ふーんって感じである。

次の部屋に進む。いわゆるメイン通路で壁一面に極彩色の花や動物やらが絶えずゆらめいている。綺麗だ。でもふーんって感じである。

私は感受性が著しく乏しい。アートは好きだが心で感じるタイプではなく、こうやってできてるのか〜って分析して楽しむタイプである。映画やドラマで泣いたのは片手の指でも余るほど。生まれつきである。

そんな感じで特に感情を動かされることなくぼんやりと展示を見ていた。会場内に流れるアンビエント系のBGMが色彩も相まってこないだ観たミッドサマーっぽいな、などと思いながら。


そしてこの考えが後々の地獄を生むことになる。

 

2階に上がる。このフロアは『見る』より『体験する』タイプの展示が多く、家族連れで賑わっていた。デコボコした地面の上を、子供たちが描いたトカゲやら魚が走っていく。平日にも関わらずアトラクション系展示は順番待ちができるほどだったので諦めて周辺を歩きつつ眺めた。
地面の凹凸で平衡感覚が狂う。反響するBGMと子供たちの声。ここで初めて「おや…?」となった。が、まだ来たばかりなので鑑賞を続ける。

 

再び1階に戻る。『滝の部屋』と言えば行った方はわかるであろう広い部屋で再びぼんやりとする。ここでようやく気付く。「あ、これミッドサマーっていうかLSDそのものだわ」と。

この空間には一切の『静』がない。音楽は絶えず流れ、景色も常に変動し続ける。日頃生活している中では遭遇しえない光景だ。

私は合法違法含めてドラッグの類は誓って使用したことはないが、自称含む経験者の方々のレポを読むのが趣味だ。それらに綴られていた光景が目の前にあった。ミッドサマーを観た有識者の方々が「薬物キメたときの景色の表現が完璧」と口々に言っていたのを思い出す。もっとも実際の幻覚剤というのはこの比ではないのだろうが、「今私は幻覚剤の世界を疑似体験している!」とちょっとテンションが上がった。

 

散策を再開。いくつかの部屋を経て無数の棒状のLEDライトで構成された迷路のような小部屋に迷い込む。チームラボの展示は基本的に薄暗い場所が多い中、この部屋は比較的明るい。というかいきなり真っ暗になったと思ったら突如真っ白な光で煌々と照らされたりする。

このあたりで本気で気分の悪さを自覚した。明暗の差が激しすぎて一気に体に負担がかかったのだろう。「これはまずい、早く出よう」と出口に向かう。

が、出口が見つからない。

部屋自体はさほど広くないのにも関わらず無数のLEDライトと鏡張りで自分がどこにいるかわからない。徐々に焦りが出始める。己の記憶力と空間把握力の悪さを呪いながら何周かした後ようやく出られた。

近くに休憩所があったので入ってベンチに腰掛ける。この休憩所はいくつかあるのだが、さすがにここには作品は置かれていない。少し休もう。そう思い目を閉じた。
しかしあの特有のBGMは多少ボリュームダウンしただけで変わらず流れ込んでくる。この部屋、防音まではされていないのだ。先程からずっと耳奥で反響している音。ここで「逃げられないのでは」という不安が過る。だがどうしようもないので休憩所を出た。

その後も館内を彷徨った後、先程とは違う2階へ上がる階段を見つける。スタッフの説明によると、地面がトランポリンのようなネットでできており、寝転がって鑑賞できる展示のようだ。正直この時点でかなり憔悴しており嫌な予感しかしなかったのだが、「せっかく来たんだから」のビンボー・スピリッツがここで発動してしまい、足を踏み入れることにした。

展示室は説明通り巨大なトランポリンというか蜘蛛の巣のようであり、一歩歩くだけでも転びそうになる。幸いちびっ子はおらず、中に入った大人たちは皆誰からともなく横になった。私は自身の状態を鑑みて揺れの少ない端の方に座った。
部屋は静かだった。天井には星空のような光が映され、さながらプラネタリウムであった。少し安堵する。やっと落ち着けるだろうかと深呼吸をひとつした刹那、

 

爆   音   襲   来

 

それまでのどの部屋でもなかったほどの大ボリュームであの謎アンビエントが始まった。思わず耳を塞ぎ、体育座りの膝に顔を埋めた。

視聴覚をシャットアウトしたと思ったら次は別のものに襲われる。『揺れ』である。部屋にいる人たちは皆大人しくネットの上に身を投げ出しているが、時折誰かが身じろぎすると、その振動は全体に伝わる。その揺れがまた何とも言えず独特なのだ。高層階にいるときの震度3〜4くらいのときの酔うような揺れに近い。まだちびっ子がピョンピョン跳ねてる方がマシだったかもしれない。
そこで思わず耳から手を離し顔を上げてしまった。それが運の尽きだった。

天井には極彩色のグチャグチャした線が蠢いていた。昔のWindowsスクリーンセーバーとかミュージックプレイヤーの画面みたいなアレだ。

 

遂にSAN値がゼロになった。

 

考えるよりも先に飛び起き、足場の悪い中を文字通り蜘蛛の巣にかかった蛾のようにもがきながら進み、部屋から這い出る。階段を駆け降りて出口を求めてひた走る。
しかし、出口に辿り着かない。

お台場のチームラボ ボーダレスは、名前の通り各部屋がシームレスに繋がっており、館内MAPも存在しない。『自由に散策して、自分で各地の展示を見つけてほしい』という制作側の意図である。

どれだけ『EXIT→』の文字の方に走って行っても出口らしいものが見えない。スタッフに訊こうにも見当たらない。どこまで行っても、どこまで行っても、あの極彩色とBGMが追いかけてくる。お化け屋敷のラストで気合いの入ったお化けのボスから全力で逃げるような状態で、半泣き半狂乱の私はついに命からがら出口からの脱出に成功した。

 

今尚夏の残り香を含む日差しに白く照らされた屋外は、ひどく彩度とコントラストが低く見えた。

 

しばらくその場で立ち尽くした後、小さじ半杯ほど残った意識が「とりあえず静かなところに行きたい」と呟き、最後の力を振り絞ってヴィーナスフォートのトイレまで重い体を引きずっていった。その姿はさながら敗残兵のようだっただろう。
個室に入り、そのまま壁伝いにズルズルと座り込む。
動くことのない落ち着いた木目調の壁で囲まれた、せいぜい出入りする人の足音程度しか聞こえない静かな空間。


それらを知覚した瞬間、涙が溢れた。


怖かった。本当に怖かった。そして安堵。


幼い頃からあまり泣かなかったタイプだが、中でも最後に『恐怖』で涙を流したのはいつだっただろうか。ホラーの類は平気だし、変質者に追いかけられたりといった恐怖体験もない。もしかしたら本当に幼児の頃以来かもしれない。
嗚咽を漏らして泣きじゃくる。涙と鼻水でマスクがビチャビチャになったので外して、かさついたトイレットペーパーで顔を覆う。

そして、涙が少し減ってきたところで「あ、」となった瞬間、脊髄反射で便座の蓋を開けて、吐いた。
もともと泣きすぎると吐く癖があり、心身ともに限界だったのがついに決壊した。胃の中身はほとんどなく、酸っぱい胃液だけが流れていく。舌が痛い。

泣いて、吐いて、いい加減落ち着いたかと思って深呼吸をする。だが目を閉じるとあの極彩色が瞼の裏で再び蠢きだして、また嘔気がこみ上げる。少し冷静になると「なんであんなもんでこんなガチ泣きしてんねん」というやるせなさでまた涙が出る。

そんなことを数回繰り返して、ようやくフラフラとトイレを出た。近くにあった自販機でミネラルウォーターを買って、ベンチに腰掛ける。鞄の中には持参したアクエリアスが入っていたが、水を買った。その心は一つで、これ以上『味』という情報を入れたくなかったからである。水は無味だ。これが本当にありがたかった。

死んだ目で動くことのない壁を見つめ続けて、ようやく働きだした脳は一つの答えを出した。

 

『帰ろう』と。


ここまで全く話題に上らなかったが一人で行ったわけではなく母と一緒に行ってきた。
私とは正反対で情動のみで生きる女である母も「さすがに少し酔った」と苦笑していた。
母はアラサーにもなって幼児のように泣きじゃくる私を、実際の幼児だったときと同じように宥めてくれた。本来であればこの後はショッピングを楽しむ予定だったのだが、私が「先に帰るから買い物してきていいよ」と言っても一緒に帰る選択をしてくれた。

これがもし同行者がどんなに気のおけない友人であったとしても楽しみにしていたイベントで突如私が錯乱号泣嘔吐した挙句先に帰るということになっては申し訳なさすぎると思ったので本当に身内でよかった。お母さんいつもありがとう。

その後せめてお茶だけしようと店を探していたら、カフェの看板に載っていたレインボーケーキなるアメリカンな極彩色のケーキの写真でフラッシュバックを起こしまた泣きかけたのは別の話。


以上がチームラボで私が体験した事象の顛末である。
断りを入れておくとこの日記にチームラボを貶める意図は一切ない。むしろアートとしてもサイエンスとしてもよくできていると思った。
が、かなり人によって向き不向きがあるのは確かであるということは伝えておきたい。

 

ここから先は今回の私の敗因について自己カウンセリングを兼ねて分析していくフェーズになる。お時間のある方はもう少しお付き合いいただけると幸いである。

 

恐らくこの手の状態に陥りやすいのは、『物事を理論で分析するタイプ』、つまり頭でっかちロジカル思考の人間だと思う。見たもの聞いたものを『情報』として処理・分析するタイプはあの空間のあまりの情報量に処理が追いつかずパンクしてしまうのだ。

冒頭で語った通り、私はアートは分析して楽しむタイプで、これどうなってるんだろう…あぁあそこから投影してるのか、これ動物に見えるけどよく見ると違う気がする…あっ全体で見ると別のものに見えるようになってる、といった感じでとにかくまじまじと見てしまう。それはそれだけ『情報』の量が増えるということであり、あっという間にキャパオーバーを迎えてしまった。ドラッグ界でいうとODである。

逆に感受性の高すぎる人はどうなんだろう。素直に圧倒されて感動できるのか、同様に押しつぶされてしまうのか、ちょっと興味がある。


ここからは豊洲の方に行かれる予定のある方向け。お台場は既になくなってしまったし私自身豊洲の方は行ったことはないし行くつもりもないので参考になるかはわかりません。

HSPの方、激しい光の明滅や大きな音が苦手な方は普通にやめておいた方がいい。ポリゴンショックのような激しい明滅や破裂音みたいなのが跋扈するほどの空間ではないが、『音や光あんまり得意じゃない』程度のレベルの方も予想以上にダメージを食らう可能性があるので充分注意してほしい。耳栓やサングラスを用意しておくと安心かもしれない。

 

チームラボの正しい楽しみ方は『Don’t think,feel it』であろう。理解しすぎない方がいいこともある。くねくねみたいなものだ。擬似ドラッグとしてカジュアルに楽しむくらいでいいのだ。
(※実際真偽は不明だが本当にキメて入館したらしき方のレポがチラホラ見つかる…。大丈夫なのか…?法ではなく精神面で)
せっかくなので某所にLSDをキメて突入した方のレポを貼っておく。もちろん場所、物質ともにフィクションであるのでご安心いただきたい。

概ねこんな感じだった。

 

少なくとも私は一年経った今もチームラボコラボのなんちゃらのWEB広告やらチームラボで撮ったであろう友人のLINEアイコンの写真を見ると息がヒュッとなるレベルのトラウマを負った。

 

決してアンチ記事でもお気持ち表明記事でもないことは今一度記載しておくが、早くなくなってくんねえかな〜〜〜〜〜〜〜